PLAY REPORT

実際に行われた趣味・遊びのレポートをお伝えいたします。

2021年09月17日

#005「三淵渓谷」

圧巻の自然美を愛でながら神秘の渓谷を旅しよう

龍神の伝説を求めてながい百秋湖ボートツーリング

 

長井の水の恩恵を存分に
絶景・三淵渓谷通り抜け参拝へ

 「水と緑と花のまち」のキャッチコピーで知られる山形県長井市。街なかには最上川舟運の面影を映す水路が走り、生活に根付いた水の文化がいまなお受け継がれている。
 今回の「つくりばプロジェクト」メンバーは、百秋湖でボートツーリングを体験することに。まず集合したのは長井市西部の野川沿いにある「野川まなび館」。ここで予約の確認と乗船手続きを済ませる。のどかな山間の景色が広がるエリアだが、川の恵みが人々を潤してきた一方、野川は源流からおよそ20kmで1,400mも降る急流であることから、かつては大雨の度に氾濫し、田畑や集落に大きな被害をもたらしていたそう。百秋湖はそんな野川の治水と灌漑を目的に増設された人工湖だ。
 野川まなび館からボート乗り場である合地沢湖面広場へは白川ダム方面へ向かって車で15分ほど。取材当日は真夏の太陽光が降り注ぐ絶好の撮影日和で、陽気に背中を押されたつくりばメンバーたちも高揚気味だ。

ライフジャケットを着用して乗船。動きやすい身軽な格好が基本。夏でも寒い場合に備え上着があると便利。

 


さまざまな動物たちが住まう
穏やかな湖水を進む

船頭を務めてくれるのは、ボートツーリングを主催する最上川リバーツーリズムネットワークの佐藤代表。最上川流域の地域づくりに長く携わり、山形県の水に関わるスペシャリストとして多方面で活躍されている人物だ。佐藤代表の案内でモーターボートに乗り込み、さっそく出発。船舶と違い、湖面に等しいポジションから眺める景色は臨場感だっぷり。日差しが反射して水面がキラキラと輝き、アドベンチャー気分を盛り上げてくれる。

 


 乗船中は百秋湖や白川ダムの成り立ち、さらには野川の歴史などの案内を聴きながら、水に沈んだ村や土地の面影を感じながら進む。
「車も人も入ってこられないこのエリアは、まさに動物たちにとって楽園です。野鳥や小動物たちは思うままに過ごし、ときどきエサ場を求めて湖を泳いで移動する熊に出くわすこともありますよ」と佐藤代表。「我々は自然の恩恵にあやかり、動物たちの世界にお邪魔しているわけですから、そんな時は熊が対岸に渡るまでじっと待ちます」と話す。
 皆うなづきながら聞いていると、水面からパチャパチャと何かが跳ねる音がした。見ると、そこには仰向けになり必死にもがいているクワガタの姿が。
「あそこにクワガタがいます、溺れています!」
「…溺れている?」誰かの叫びを反芻すると、佐藤代表は水の跳ねた場所までボートを引き返してくれた。強風に煽られたのか、不運にも湖のうえへ落ちたミヤマクワガタ。彼らにとってこの広い湖上は、果てない大海原といった程であろう。自然を愛する通りすがりの人間に見つかり命拾いだ。

溺れていたミヤマクワガタを救出。

 


 

歴史に翻弄された
悲恋の卯の花姫伝説

白川ダムが完成する前はここに三淵神社があった。水に沈んだ杉林がその名残り。

 多彩な夏山の緑に視界を埋め尽くされながら進む。ボートの上では、平安時代後期、奥州十二年合戦の時代に起こった卯の花姫の伝説について語られていた。
 陸奥豪族であった安倍貞任は、長井を戦の要所と定め、愛娘である卯の花姫を遣わして統治させていた。そこへ源頼義軍が攻め入ってくる。頼義の長男である義家はそんな激戦の最中、卯の花姫へ「戦は本意ではない。然るべき時がきたら妻として迎え入れたい」と書いた誓紙を何度も送り、敵軍である貞任の戦法を聞き出したという。卯の花姫はそれが戦略であったとは知らずに軍法を漏らしてしまい、とうとう父・貞任は討たれてしまった。その知らせを聞いた卯の花姫は、自らの所業を心から悔いて、三淵の底へ身を投げたという。
 これが卯の花姫伝説の概要だが、長井市内で語り継がれている伝承では、命果ててなお里の無事を案じる卯の花姫の御霊が三淵の龍神と融合して獅子となり、長井市の伝統神事に登場する黒獅子となった、と話が続く。

 


 

和やかな空気が一変
龍神が住むという太古の谷が現れる

 

緑のトンネル、漆黒の花崗閃緑岩。幻想的な空間で地球の息吹を感じる。

 夏の日を浴びながら穏やかに進んだボートの前に、ひときわ鬱蒼とそびえ立つ淵が見えてきた。渓谷の川幅は3~5mと狭く、ボート一艘がようやく通れるほど。その両側に高さ50mを超える断崖絶壁が250mほど続く。それまで見ていた大パノラマが一変したことで、つくりばメンバーたちの視線はその特異な景観に吸い込まれている様子だ。
「渓谷に差し掛かったらボートはゆっくりと進みます。まず入口で手を合わせ、心静かにご参拝ください」と佐藤代表。
 硬質な花崗閃緑岩のため垂直に切り立った崖。その肌は濡れて漆黒に輝き、水面が波風で揺れ動く様も相まってまさに神域を思わせる。諭されるまでもなく、一堂は滴る水音や透明度を増した湖面の美しさ、遥か昔から風化侵食によって刻まれた奇跡の景観を前に言葉が出ない。
「こんな場所が山形にあったなんて」
「ボートに乗って冒険気分が満たされ、三淵渓谷の美しさに心が洗われた、とても贅沢な時間」
「一生に一回は行ったほうがいい」
 往路のボート上で交わされたつくりばメンバーの会話だ。
 山、海、川、そして湖と、山形県にはそのすべてがある。遥かなる時間をかけて先人たちが守り継いできた地域資源。私たちはいま、こうした地元の豊かさに改めて気づくチャンスを得た。山形が誇る自然という雄大かつ偉大な懐に飛び込み、言葉では語り尽くせない体験をする。そんな感動の時間をこの「つくりばプロジェクト」の場で共有できることをこれからも願って。  

 

 


ボートツーリングを愉しむ同士、すれ違う際は笑顔で手を振り合うのがお約束。
往復でおよそ1時間のツアー。陸地が懐かしく感じるくらい濃密な時間。

  • 店舗データ
    最上川リバーツーリズムネットワーク
    山形県長井市平山2743-4(野川まなび館内)
    TEL 0238-87-0605  FAX 0238-87-0611
    ​受付8:30~17:15(年末年始を除く)
    HP→https://manabikan.wixsite.com/boat

◎運行案内
11月までの毎週金〜日曜と祝日に運行中。1日最大8便出航。
1艘貸切6人まで12,000円(税込)、10人まで20,000円(税込)
※悪天候やダム湖の水位状況等により運航日の変更及び中止になる場合がございます。
※コロナ感染症対策で当面の間1グループ1便貸切でのご利用となります。
※こどもは身長85cm以上から大人のかたと一緒に乗艇可能です。※予約優先につき、事前に電話で乗船日をご予約ください。

 



 

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